古典力学 9 (慣性モーメントテンソル)

硬いものの回転

硬いものの回転を考えます。
手書きでも出来るように楕円を重ねて剛体を表すとします。

001

回転軸は原点を通るとして、回転軸は重心を通らないとします。

角運動量を求めます。
そうすると角速度ベクトルとの関係になります。

$$ (角運動量) = (慣性モーメントテンソル)(角速度ベクトル) $$

運動量と速度の関係は下記でした。

$$ (運動量) = (質量)(速度) $$

角運動量と運動量と速度はベクトルです。角速度はスカラーです。

質量は慣性質量とも言います。これと式の関係が対応しています。
ですが、なんでもかんでも既に得ている知識とのアナロジーで考えるということは非常に悪いことです。結論は同じになるとしても、慣性モーメントテンソルが非常に小さい場合や非常に大きい場合を考えて、慣性質量と同じ役割となる、ということを自分で確認しておくべきでしょう。

\(\boldsymbol{F} = m\boldsymbol{a} \)で、重たいもの(\(m\)が大きい)が止まっているときは動かしにくく、軽いもの(\(m\)が小さい)が止まっているときは動かしやすく、重たいものが動いているときは止めにくく、軽いものが動いているときは止めやすい、の回転バージョンと説明されます。

硬いものの回転

運動エネルギーを求める場合もあります。
そうすると角速度ベクトルとの関係になります。

同様に、ニュートン運動方程式でも、オイラー・ラグランジュ運動方程式でも、慣性モーメントテンソルと角速度ベクトルの関係にして、慣性モーメントテンソルを得ることができます。

運動の第一法則

鉄球の振り子(鉄球どうしがぶつかる)の実験で、運動の第三法則については自分で絶対に正しいと主張するところまでは出来なくても、仮説を立てることはできると思います。

ぶつかりに行った方の鉄球が、ぶつかって止まるということは、逆向きに等しいちからが作用していると予想される、という仮説は自分で立てることができると思います。

ガリレオ・ガリレイは振り子(ぶつからない振り子。天井からぶらさげて、ずっと行ったり来たりするだけ。)の実験から、下記の法則が成り立つと予想したということです。

経験則として正しいとする : 運動の第一法則

ちから(外力)の作用が無ければ、静止していたものは静止しつづける。
ちから(外力)の作用が無ければ、速度\( \boldsymbol{v} \)で移動していたものは速度\( \boldsymbol{v} \)で移動しつづける。(重力も何もない状況を考えるので、これは等速直線運動になる、と考える。)

運動の第一法則を慣性の法則と言います。

慣性質量と慣性モーメント

止まっているものを動かすとき、移動しているものを止めるとき、同じちからを使ったとすると、\(m\)が大きい程、加速度の絶対値が小さくなる。
止まっているものを回すとき、回っているものを止めるとき、同じちからを使ったとすると、\(I_{ij}\)が大きい程、(角)加速度の絶対値が小さくなる。

(復習)角度と円

radianについて復習します。


002

radianは単位円の、角度=対応する円周の長さ、という定義です。
円周率\(\pi\)が、直径(単位円の場合は2)と、円周の長さ(直径が1の場合は3.141592..)、の比という定義なので、単位円の半分の角度が\(\pi\)、もう半分も\(\pi\)ということになります。


003

単位円は半径が1の円です。
半径が\(r\)の円の円周上の移動は下記のように表すことができます。

例えば、\(r=2\)のとき、\(\displaystyle\theta=\frac{\pi}{6}\)であるならば、\(r\theta\)は\(\displaystyle\frac{\pi}{3}\)となります。

剛体の中の1個の質点を回転させることを考える

剛体の中の1個の質点を考えます。
一周が回転することを考えます。質点の軌道は回転軸を中心とした円を描きます。
質点系に拡張すると、剛体の中の全ての質点の軌道は回転軸を中心とした円を描きます。

004

本稿では、下記とします。

  • 原点を\(O\)と表す。
  • 回転軸から質点までの距離、つまり円の半径を\((radius)_i\)と表す。
  • 質点の位置を\(\vec{r}_i\)と表す。
  • 原点\(O\)と質点の位置\(\vec{r}_i\)の距離を\(l_i\)と表す。
  • 回転軸と\(\vec{r}_i\)の角度を\(\theta_i\)と表す。

005

  • 回転軸を中心とした回転を角度\(\phi\)と表す。
  • 質点の速度を\(\vec{v}_i\)と表す。

006

角速度

定義 : 角速度

下記を角速度と定義します。スカラーです。
$$ \frac{d}{dt}\phi = \omega $$

007

\(r\)は一定なので定数として考えます。

$$ \frac{d}{dt} r\phi = r \frac{d}{dt} \phi = r \omega $$

(準備)余弦定理の証明

007

\[
\begin{align*}
c^2 &= (a\sin\theta)^2 + FG^2 \\
&= a^2(\sin\theta)^2 + (b-a\cos\theta)^2 \\
&= a^2(\sin\theta)^2 + b^2 – 2ab\cos\theta + a^2(\cos\theta)^2 \\
&= a^2 + b^2 – 2ab\cos\theta
\end{align*}
\]

(準備)ベクトルの大きさ

009
上記のvectorの大きさは下記です。
$$ |\vec{a}|^2 = a_x^2 + a_y^2 $$
よって、
$$ |\vec{a}| = \sqrt{a_x^2 + a_y^2} $$

010
上記のvectorの大きさは下記です。
$$ OA^2 = a_x^2 + a_y^2 $$
\[
\begin{align*}
|\vec{a}|^2 &= OA^2 + a_z^2 \\
&= a_x^2 + a_y^2 + a_z^2
\end{align*}
\]
よって、
$$ |\vec{a}| = \sqrt{a_x^2 + a_y^2 + a_z^2} $$

(準備)ベクトルの成分と長さの関係

011
最も都合の良い向きから見る場合を考えます。
012
余弦定理より、
$$ |\vec{b}-\vec{a}|^2 = |\vec{a}|^2 + |\vec{b}|^2 – 2|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta $$
$$ (b_x-a_x)^2 + (b_y-a_y)^2 + (b_z-a_z)^2 = a_x^2 + a_y^2 + a_z^2 + b_x^2 + b_y^2 + b_z^2 – 2|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta $$
$$ a_x^2 – 2a_xb_x + b_x^2 + a_y^2 – 2a_yb_y + b_y^2 + a_z^2 – 2a_zb_z + b_z^2 = a_x^2 + a_y^2 + a_z^2 + b_x^2 + b_y^2 + b_z^2 – 2|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta $$
$$ – 2a_xb_x – 2a_yb_y – 2a_zb_z = – 2|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta $$
$$ a_xb_x + a_yb_y + a_zb_z = |\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta $$

ピタゴラスの定理→余弦定理→左辺を内積と定義する、という流れが自然かと思います。

(準備)外積の大きさ

下記とします。
\[
\begin{gather}
\vec{a} = (a_x,a_y,a_z) \\
\vec{b} = (b_x,b_y,b_z) \\
\end{gather}
\]

外積によって得るベクトルは、
$$ \vec{a} \times \vec{b} = (a_y b_z – a_z b_y, a_z b_x – a_x b_z, a_x b_y – a_y b_x) $$
そうすると、
$$ |\vec{a} \times \vec{b}| = \sqrt{(a_y b_z – a_z b_y)^2 + (a_z b_x – a_x b_z)^2 + (a_x b_y – a_y b_x)^2} $$
だから、
$$ |\vec{a} \times \vec{b}|^2 = (a_y b_z – a_z b_y)^2 + (a_z b_x – a_x b_z)^2 + (a_x b_y – a_y b_x)^2 $$

\[
\begin{align*}
|\vec{a} \times \vec{b}|^2 &= a_y^2 b_z^2 – 2 a_y b_z a_z b_y + a_z^2 b_y^2 + a_z^2 b_x^2 – 2 a_z b_x a_x b_z + a_x^2 b_z^2 + a_x^2 b_y^2 – 2 a_x b_y a_y b_x + a_y^2 b_x^2 \\
&= a_y^2 b_z^2 + a_z^2 b_y^2 + a_z^2 b_x^2 + a_x^2 b_z^2 + a_x^2 b_y^2 + a_y^2 b_x^2 – 2 a_y b_z a_z b_y – 2 a_z b_x a_x b_z – 2 a_x b_y a_y b_x \\
&= a_y^2 b_z^2 + a_z^2 b_y^2 + a_z^2 b_x^2 + a_x^2 b_z^2 + a_x^2 b_y^2 + a_y^2 b_x^2 – 2 (a_y b_y a_z b_z + a_x b_x a_z b_z + a_x b_x a_y b_y ) \\
\end{align*}
\]

\[
\begin{align*}
|\vec{a} \times \vec{b}|^2 &= a_y^2 b_z^2 + a_z^2 b_y^2 + a_z^2 b_x^2 + a_x^2 b_z^2 + a_x^2 b_y^2 + a_y^2 b_x^2 + (a_x^2 b_x^2 + a_y^2 b_y^2 + a_z^2 b_z^2) – (a_x^2 b_x^2 + a_y^2 b_y^2 + a_z^2 b_z^2) – 2 (a_y b_y a_z b_z + a_x b_x a_z b_z + a_x b_x a_y b_y ) \\
&= a_x^2 b_x^2 + a_x^2 b_y^2 + a_x^2 b_z^2 + a_y^2 b_x^2 + a_y^2 b_y^2 + a_y^2 b_z^2 + a_z^2 b_x^2 + a_z^2 b_y^2 + a_z^2 b_z^2 – (a_x^2 b_x^2 + a_y^2 b_y^2 + a_z^2 b_z^2) – 2 (a_y b_y a_z b_z + a_x b_x a_z b_z + a_x b_x a_y b_y ) \\
&= (a_x^2 + a_y^2 + a_z^2)(b_x^2 + b_y^2 + b_z^2) – (a_x^2 b_x^2 + a_y^2 b_y^2 + a_z^2 b_z^2) – 2 (a_y b_y a_z b_z + a_x b_x a_z b_z + a_x b_x a_y b_y ) \\
&= (a_x^2 + a_y^2 + a_z^2)(b_x^2 + b_y^2 + b_z^2) – (a_x b_x + a_y b_y + a_z b_z)^2 \\
&= (a_x^2 + a_y^2 + a_z^2)(b_x^2 + b_y^2 + b_z^2) – (|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta)^2 \\
&= |\vec{a}|^2|\vec{b}|^2 – (|\vec{a}||\vec{b}|\cos\theta)^2 \\
&= |\vec{a}|^2|\vec{b}|^2 – |\vec{a}|^2|\vec{b}|^2(\cos\theta)^2 \\
&= |\vec{a}|^2|\vec{b}|^2 – |\vec{a}|^2|\vec{b}|^2(1-(\sin\theta)^2) \\
&= |\vec{a}|^2|\vec{b}|^2(\sin\theta)^2
\end{align*}
\]

よって、
$$ |\vec{a} \times \vec{b}| = |\vec{a}||\vec{b}|\sin\theta $$

角速度ベクトルを定義する

剛体の中の1つの質点の速さは下記となります。

\[
\begin{align*}
(速さ) = |\vec{v}_i| = \frac{d}{dt} (radius)_i \phi &= (radius)_i \frac{d}{dt} \phi \\
&= l_i sin\theta_i \frac{d}{dt} \phi \\
&= |\vec{r}_i| sin\theta_i \omega \\
&= \omega |\vec{r}_i| sin\theta_i
\end{align*}
\]

下記であれば、外積の大きさ、となります。\(\vec{\omega} \times \vec{r}_i\)の大きさです。
$$ |\vec{\omega}| |\vec{r}_i| sin\theta_i $$

\(\vec{\omega}\)の向きを回転軸と同じに取ると、\(\vec{\omega} \times \vec{r}_i\)の向きが\(\vec{v}_i\)の向きと一致します。

ここで、下記とします。

$$ \vec{\omega} = \omega_x \vec{e}_x + \omega_y \vec{e}_y + \omega_z \vec{e}_z $$

下記の様に表すことができます。

$$ \vec{\omega} = (direction_x)(value) \vec{e}_x + (direction_y)(value) \vec{e}_y + (direction_z)(value) \vec{e}_z $$

\((direction_x)\)と\((direction_y)\)と\((direction_z)\)でベクトルの向きを表しています。この比は一意に定まります。
\(value\)でベクトルの大きさを表しています。

よって、下記を満たす\(\omega_x\)と\(\omega_y\)と\(\omega_z\)の組はただ1つとなります。
\(|\vec{\omega}| = \sqrt{\omega_x^2+\omega_y^2+\omega_z^2}\)

定義 : 角速度ベクトル

下記を満たす、回転軸と同じ向きのベクトルを角速度ベクトルと定義します。
$$ \frac{d}{dt}\phi(t) = \sqrt{\omega_x^2+\omega_y^2+\omega_z^2} $$

上記により、下記の関係を得ます。
$$ \vec{v}_i = \vec{\omega} \times \vec{r}_i $$

角運動量を求める

013

1つの質点の角運動量は下記でした。

$$ \vec{L}_i(t) = \vec{r}_i(t) \times m_i \vec{v}_i(t) $$

\[
\begin{align*}
\vec{L}_i &= \vec{r}_i \times m_i \vec{v}_i \\
&= m_i \vec{r}_i \times \vec{v}_i \\
&= m_i \vec{r}_i \times (\vec{\omega} \times \vec{r}_i) \\
&= m_i \vec{r}_i \times (\vec{\omega} \times \vec{r}_i) \\
\end{align*}
\]

ここで、位置を\((x_i,y_i,z_i)\)で表すことにして、
$$ \vec{\omega} \times \vec{r}_i = (\omega_y z_i – \omega_z y_i)\vec{e}_x + (\omega_z x_i – \omega_x z_i)\vec{e}_y + (\omega_x y_i – \omega_y x_i)\vec{e}_z $$
だから、
\[
\begin{align*}
\vec{r}_i \times (\vec{\omega} \times \vec{r}_i) &= \quad (y_i(\omega_x y_i – \omega_y x_i) – z_i(\omega_z x_i – \omega_x z_i))\vec{e}_x \\
& \quad + (z_i(\omega_y z_i – \omega_z y_i) – x_i(\omega_x y_i – \omega_y x_i))\vec{e}_y \\
& \quad + (x_i(\omega_z x_i – \omega_x z_i) – y_i(\omega_y z_i – \omega_z y_i))\vec{e}_z \\
&= \quad (\omega_x y_i^2 – \omega_y x_i y_i – \omega_z x_i z_i + \omega_x z_i^2)\vec{e}_x \\
& \quad + (\omega_y z_i^2 – \omega_z y_i z_i – \omega_x x_i y_i + \omega_y x_i^2)\vec{e}_y \\
& \quad + (\omega_z x_i^2 – \omega_x x_i z_i – \omega_y y_i z_i + \omega_x y_i^2)\vec{e}_z \\
\end{align*}
\]

ベクトル、テンソル、ベクトル、です。

\[
\begin{pmatrix}
(L_i)_x \\
(L_i)_y \\
(L_i)_z
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
m_i (y_i^2+z_i^2) & -m_i x_i y_i & -m_i x_i z_i \\
-m_i x_i y_i & m_i (x_i^2+z_i^2) & -m_i y_i z_i \\
-m_i x_i z_i & -m_i y_i z_i & m_i (x_i^2+y_i^2)
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\omega_x \\
\omega_y \\
\omega_z
\end{pmatrix}
\]

質点系に拡張します。
ベクトル、テンソル、ベクトル、です。

\[
\begin{pmatrix}
L_x \\
L_y \\
L_z
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
\displaystyle \sum_{i=1}^{n}m_i (y_i^2+z_i^2) & \displaystyle -\sum_{i=1}^{n}m_i x_i y_i & \displaystyle -\sum_{i=1}^{n}m_i x_i z_i \\
\displaystyle -\sum_{i=1}^{n}m_i x_i y_i & \displaystyle \sum_{i=1}^{n}m_i (x_i^2+z_i^2) & \displaystyle -\sum_{i=1}^{n}m_i y_i z_i \\
\displaystyle -\sum_{i=1}^{n}m_i x_i z_i & \displaystyle -\sum_{i=1}^{n}m_i y_i z_i & \displaystyle \sum_{i=1}^{n}m_i (x_i^2+y_i^2)
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
\omega_x \\
\omega_y \\
\omega_z
\end{pmatrix}
\]


参考

トランジスタ技術2019年7月号



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