回転の運動方程式について説明します。
ベクトルは太字にしていますが、わかりにくいです。
複雑な状況
下の図の様に円周上に束縛された質点を考えます。円は、x軸、y軸、z軸、それぞれに対して少し傾いています。これに対して、斜め上向きかつやや外向きのちからを加える状況を考えます。
右手系です。右手系にするか左手系にするかは定義だけの話しです。
回転の中心から考えて、ちから\(\boldsymbol{F}\)を加える位置ベクトルを\(\boldsymbol{r}\)とします。値は下記とします。
\[
\begin{align*}
\boldsymbol{r} = (r_x, r_y, r_z) = ( 3, 10, -2 ) \\[8pt]
\boldsymbol{F} = (F_x, F_y, F_z) = ( -15, 5, 4 )
\end{align*}
\]
左からxy平面、yz平面、zx平面です。位置ベクトルです。
左からxy平面、yz平面、zx平面です。ちからです。
位置ベクトルとちからを一緒に表示します。
x軸方向、y軸方向、z軸方向に分解します。
\(\boldsymbol{r}_x\)や\(\boldsymbol{r}_y\)をスカラーではなくベクトルとして表記していますが、\(\boldsymbol{r}_x = (r_x, 0, 0)\)の様に考えてください。
xy平面
xy平面で位置ベクトルとちからを考えます。
計算は座標、スカラーでやります。
下記の計算が妥当と思います。
\[
r_x F_y – r_y F_x
\]
yz平面
yz平面で位置ベクトルとちからを考えます。
下記の計算が妥当と思います。
\[
r_y F_z – r_z F_y
\]
zx平面
zx平面で位置ベクトルとちからを考えます。
下記の計算が妥当と思います。
\[
r_z F_x – r_x F_z
\]
外積
上述をまとめると外積になります。
$$ \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{F} $$
毎回、これをやるよりは外積を暗記した方が楽です。教える方も教わる方も30分で済みます。
しかし、一度、これをやっておかないと外積がよくわからないまま丸暗記になってしまうと思います。
自分に一番合う位置ベクトルとちからの組み合わせを考えておいて、暗記を放棄して、毎回導出するということでもいいとは思います。3分は切れると思います。しかし、3分を切る頃には丸暗記していると思います。
PCとInternetがいつでも使える今、仕事だと全部を丸暗記しなくていい状況になったので、今後どうなるでしょうか。今でも残っていますが、検索できなかった時代は「あの本に書いていたはず」というのがとても重要でしたが、状況が変わりました。たくさん丸暗記できていると非常に仕事が早いので、丸暗記の重要性は変わらないですが。Windowsの検索機能は今だに悲惨なままですが、MacやiPhoneの検索は優秀です。勿論、Googleの検索はとても優秀です。
二次元の運動はとりあえず記述可能になって、三次元の運動はどうしようかとガウスやハミルトンが複素数を使って、ハミルトンが四元数を思いついて、マクスウェルが利用して、ギブスとヘビサイドが三次元の運動の記述に虚数なんか要らん、と喝破した、というのが自分の中の簡単な歴史になります。
外積(outer)はグラスマンに因む、ということです。
複雑な状況が整理された結果のみから議論が始まるのが物理の教科書です。理解するために手を動かしまくるか、ここは巨人の肩の上に乗ると覚悟を決めて暗記するか、2択と思います。
モーメント(moment)
今までの話しは「ちからのモーメント」でした。Torqueでした。
ここで、モーメントの定義です。
位置ベクトル\( \boldsymbol{r} \)にある物体が、何らかの物理量を持つとします。この物理量を、ここでは\( \boldsymbol{X} \)とします。
$$ 原点 \mathrm{O} に対する \boldsymbol{X}のモーメント = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{X} $$
位置ベクトルに対する物理量を考えると毎回同じ様にデカルト座標に分解するのは大変なので、momentという名前を与えて統一的に扱いましょうということだと思います。
モーメントの定義から、という話しですが、下記をちからのモーメントと定義します。Torqueと言います。
$$ 原点 \mathrm{O} に対する \boldsymbol{F}のモーメント = \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{F} $$
多くの場合に下記で表されます。
$$ \boldsymbol{N}(t) = \boldsymbol{r}(t) \times \boldsymbol{F}(t) $$
自分は、回転軸を中心に回すことを意識して、右ねじを考えて、ベクトルの大きさは回転の速さや強さを表す、と捉えています。
次の図の様に複数のちからを考えて、統一的に扱う様にと考えると仕方がないかと思っています。他にもっと良い定義も無さそうです。定義を上手くつくることに成功しても、外積と同じわかりにくさになると思います。
(復習)積の微分
\[
\begin{align*}
(f(x)g(x))’ & = \lim_{h \to 0} \frac{f(x+h)g(x+h)-f(x)g(x)}{x+h-x} \\
& = \lim_{h \to 0} \frac{(f(x+h)-f(x))g(x+h)+(g(x+h)-g(x))f(x)}{h} \\
& = f'(x)g(x)+f(x)g'(x)
\end{align*}
\]
(準備)外積の微分
\[
\begin{align*}
(\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v})’ & = ( (r_x v_y – r_y v_x) \boldsymbol{e}_z + (r_y v_z – r_z v_y) \boldsymbol{e}_x + (r_z v_x – r_x v_z) \boldsymbol{e}_y )’ \\[7pt]
& = ( (r_x v_y)’ – (r_y v_x)’ ) \boldsymbol{e}_z + ( (r_y v_z)’ – (r_z v_y)’ ) \boldsymbol{e}_x + ( (r_z v_x)’ – (r_x v_z)’ ) \boldsymbol{e}_y \\[7pt]
& = ( r_x’ v_y + r_x v_y’ – r_y’ v_x – r_y v_x’ ) \boldsymbol{e}_z + ( r_y’ v_z + r_y v_z’ – r_z’ v_y – r_z v_y’ ) \boldsymbol{e}_x + ( r_z’ v_x + r_z v_x’ – r_x’ v_z – r_x v_z’ ) \boldsymbol{e}_y \\[7pt]
& = ( r_x’ v_y – r_y’ v_x + r_x v_y’ – r_y v_x’ ) \boldsymbol{e}_z + ( r_y’ v_z – r_z’ v_y + r_y v_z’ – r_z v_y’ ) \boldsymbol{e}_x + ( r_z’ v_x – r_x’ v_z + r_z v_x’ – r_x v_z’ ) \boldsymbol{e}_y \\[7pt]
& = \boldsymbol{r}’ \times \boldsymbol{v} + \boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v}’
\end{align*}
\]
回転の運動方程式の導出では下記の関係に移項しておいた方がわかりやすいです。
\[
\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v}’ = (\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v})’ – \boldsymbol{r}’ \times \boldsymbol{v}
\]
回転の運動方程式
\( \boldsymbol{F} = m \boldsymbol{a} \)の両辺に位置ベクトル\(\boldsymbol{r}\)をかけます。外積です。
\[
\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{F} = \boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{a}
\]
繰り返しになりますが、左辺をちからのモーメントと定義します。
\[
\begin{align*}
\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{F} & = \boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{a} \\
& = \boldsymbol{r} \times m \frac{d \boldsymbol{v}}{dt} \\
& = m \boldsymbol{r} \times \frac{d \boldsymbol{v}}{dt} \\
& = m ((\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v})’ – \boldsymbol{r}’ \times \boldsymbol{v}) \\
& = m ((\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v})’ – \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{v}) \\
& = m (\boldsymbol{r} \times \boldsymbol{v})’ \\
& = \frac{d}{dt} (\boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{v})
\end{align*}
\]
下記を角運動量と定義します。
\[
\boldsymbol{r} \times m \boldsymbol{v}
\]
多くの場合に下記で表されます。
$$ \boldsymbol{L}(t) = \boldsymbol{r}(t) \times m \boldsymbol{v}(t) $$
モーメントの定義から、運動量のモーメントと言えます。言う人にたまに会います。
上記をまとめて、下記を回転の運動方程式と言います。
$$ \frac{d}{dt} \boldsymbol{L}(t) = \boldsymbol{r}(t) \times \boldsymbol{F}(t) $$
まとめ
いかにベクトルが強力かがわかります。
\(r_z\)を正の値にすれば、図と対応します。\(r_z\)と\(F_z\)が重なってしまうため、\(r_z\)を負にしています。
続きはこちら、古典力学 4です。
お断り
微分積分を使った古典力学なので、中学生、高校生は参考にしないでください。
参考
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